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「あははっ…わたし、大空を飛んじゃうの♡」

ホテルのロビーからすぐ側の非常階段で、
女が満面の笑みを浮かべている。

近くには脱ぎ捨てられたスカートや
可愛らしい洋服が転がっている。

「おい、ど、、どうしたんだ急に!
 則子(のりこ)!やめろ!落ち着け!」

彼氏らしき男が非常階段から飛び降りようとする
則子と呼ばれる若い女性に賢明に呼びかけている

「えへへ…
 私たち十分幸せだったよねー?」

則子が満面の笑みで言う

「人間にはね…
 幸せの上限値が決まっているの♪

 私たちは~
 それを使い果たしちゃったのぉ!
 あははははは♡」

彼女と彼氏は、就活を終えて、
二人で旅行に来たカップルだった。

将来も決まり、幸せの絶頂に居た
二人ー。

そんな二人が彼には許せなかった。
そう、ホテルノシハイニン、名倉俊之には。

彼は、迷わず彼女に憑依した。
意識も体も全てを奪われた彼女は、突然笑い出し、
服を脱ぎ捨て非常階段の方に歩いて行ったのだった。

高所にあるこのホテル。
非常階段から飛び降りればほぼ100パーセント死ぬ…。

則子に憑依する名倉は叫んだ

「則子の人生、終了でございま~~~す!」

嬉しそうに叫ぶ則子。
彼氏が慌てて則子を止めようとして
走り寄った。

しかし、止めようとした彼氏共々、
二人は非常階段から転落し、
下から「グチャっ」と言う音が聞こえたのだった。


ガチャ。

ロビー奥の支配人室から
ホテルの支配人を勤める若き女性、
波川 亜衣(なみかわ あい)が出てきた。

受付女性がたった今、非常階段から
カップルが飛び降りたことを告げる。

亜衣は優しく微笑んで、
救急車と警察を呼ぶように指示をした。

花のように、おしとやかな女性。
しかし、彼女はー憑依されていた。

今や亜衣は、亜衣ではない。
ホテルノシハイニン名倉俊之の意のままに動く
操り人形なのだ。

名倉は、前のホテルで、
”憑依暗殺部隊”という暗殺部隊に命を狙われて
殺害された。

だが、殺害された体は”名倉本人”のものではなかった。
名倉自身の体は”誰の手も届かない安全な場所”にあるのだからー。

亜衣は誰にも気づかれないように邪悪な笑みを浮かべた

「伊武 則子の人生ー終了でございます」

と。



その様子をロビーの休憩スペースから見つめる男の姿があった。
怪しげな風貌の男、検死官のジョー。

彼は5日間、このホテルに滞在する予定となっていた。

目的は一つ。

ジョーはいつものように自分の姿を透明にして囁いた。

「美しい―。
 まるで花の如し」

名倉が憑依している女性支配人を見つめながらジョーは、
笑みを浮かべた。
そして、右手には悪の魂。

死者から取り出した悪の部分を憑依させ、
その悪に浸食されていくのを見る―。
それがジョーの楽しみだ。

そして願わくば、いつか悪の魂を克服できる人間を見てみたいとも
思っていた。

「--今回は、カップルに嫉妬した挙句、殺害してしまった
 哀れな男の悪の魂を放り込む。

 花は、悪の魂に打ち勝つことが…
 できるかな…フフフ」

ジョーはそういうと、ホテル支配人、亜衣に向けて
悪の魂を投げ込んだ。

遠くから放り投げられた悪の魂は亜衣の体に命中し、
亜衣が「ひっ!?」と一瞬声を上げた。

「--我ながら素晴らしいコントロールだ」

ジョーは自画自賛すると、
自分の部屋へと戻ることにし、休憩スペースから立ち上がった。

悪の魂の影響が出るまで、時間がかかる。
今は時を待つのみ。


「------…」
亜衣は、部屋に戻っていくジョーの姿を見つめた。

「---今のは」
不思議そうな表情を浮かべる亜衣。
しかし、彼女はすぐに興味を失った。

彼女に憑依している名倉にとって、
カップル以外は、裁くべき対象ではない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

日が過ぎていく。
2日、3日、4日と。

だが、亜衣に一向に変化は現れない。

「---……どういうことだ?」
ジョーは首をかしげる。

今まで104人の人間に
悪の魂を放り込んできたが、
どんな人間も悪の魂に影響され、
おかしな行動をとってきた。

だがーー。

「いーーーっひひひひひひひひ~
 あははははははは~~~~」

女子中学生と思しき子が、
狂ったような笑い声をあげながら、
服を破り捨ててホテルの外に走って行くのが見えた。

ジョーは顔をしかめる。。

「最近は、、変な子が増えたものだな」

先日の飛び降りて死んだカップルといい、
今の女子中学生と言い、
頭のおかしな連中が増えたものだ。

ジョーは呆れ顔で部屋へと戻る。

滞在は明日まで。
果たして、変化は…。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日も亜衣に変化は無かった。

「あの女・・・
 悪の魂を克服したということか・・・
 すばらしい」

ジョーは静かにほほ笑んだ。

だが、物足りなさも感じた。
悪の魂を克服される、ということは
何の変かもないと言うこと。

興ざめだ。


ジョーは仕方が無く、滞在を終え、そのまま旅を
終えて帰ることにした。

死んだ妹の”悪の魂”から妹を復活させる方法を模索せねばならない。


「---お世話になりました」
ジョーがロビーで女支配人を見つけ、声をかけると
亜衣は優しく微笑んだ

「またのご利用お待ちしておりますー」と。

変化はない。

ジョーは静かに舌打ちをしてホテルを後にした。


「----少し、、遊んでやるか」
亜衣はそう、ほほ笑んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅したジョーは、
妹の悪の魂を祭ってある祭壇の前で
チャイコフスキーの白鳥の湖の演奏を始めた。

「---次の獲物は」
ホワイトボードの写真を見つめるジョー。

そこには、とある富豪のお嬢様の写真が貼ってある。

「育ちの良いお嬢様に、粗暴な男の悪の魂を
 放り込んだらーーー」


そこまで言うと、ジョーは言葉を止めた。


「---誰だ?」
部屋に誰かが入ってきた。

ジョーが振り返ると
そこには可愛らしいツインテールの小学生がいた

「---!?」
ジョーは驚く

「な、、何だ?どうやって入った?」
ジョーが問いかけると、
小学生は邪悪にほほ笑んだ


「---こんばんは。
 先日はホテルでお世話になりました」

子供とは思えない落ち着いた様子で話す少女。

「---何を言っている?」
ジョーが机の椅子に腰かけ
ワイングラスのぶどうジュースを飲みながら笑う


「--私ですよ。
 貴方が”何かをした”
 ホテルの女支配人…」

ジョーは小学生の言葉に耳を疑った。

「ふっ…
 ふはっ、、
 ははははははっ!
 
 お嬢ちゃん、おじさんをからかっちゃいけないよ。
 どうしたんだい?迷子か何かかい?」

ジョーが笑いながらその少女に近づくと、
少女はこの世のものとは思えない目つきで
ジョーを見た

「-------!!!!」

その目を見ただけでジョーは
目の前にいる女子児童が
”普通の存在”でないことを理解した。


「---私に何をした?」

冷たい目で、尊大な口調で話す女子児童。


ジョーは一瞬迷ったが、事実を打ち明けても
問題ない、
寧ろ隠す方が逆効果だと判断して
事実を打ち明けた。

悪の魂を投げ込んだことをー。


すると、女子児童は笑った

「あははははははっ!なんだそれだけか!
 ザンネンだったな…
 君の”悪の魂”とやらが効果を現さないのには
 ワケがある-」

女子児童が自分のスカートをぐちゃぐちゃに
いじりながら笑う。

そして言った。

「私の名は名倉俊之ー。
 私はな、人に憑依する力を持っている。
 分かるか??

 この可愛い子がこんなことすると思うか?」

そう言うと、女子児童が、自分のまだ全然発達していない
胸を弄び始めた。

「----まさか」
”憑依能力” ジョーはその言葉を聞いて
一つの答えにたどりつく。

「あの女支配人はーーー」
ジョーが言うと、女子児童は笑った。

「ピンポーン!だいせいかーい!
 あの波川 亜衣って女は、
 私が精神も肉体も支配しちゃってるの~
 えへへ!」

女子児童の芝居をしながら言う名倉。

そして、

「だからね。悪の魂は亜衣の心には影響を
 与えたけれど、
 部外者であるこの私、名倉には影響0ってわけ」

ジョーは理解した。

亜衣に憑依させた悪の魂は亜衣を蝕んだ。

だが、既に亜衣には別の男が憑依していて、
それ故、外部の魂である名倉とやらには影響が出なかったのだと。

「あ、ちなみにこの子は、
 塾を終えて家に帰っていた優等生の奥崎 輪花(おくざき りんか)ちゃん。

 えへへ…わたし、家に帰らないでこんなところに居るぅ~はははっ!」

笑う女子児童の輪花。

ジョーは無言で、奥の部屋の鍵を開いた。


”ヤバイやつに関わってしまった”

そう考えたジョーは切り札を使うことにした。

ジョーの家には護身用に閉じ込めておいた女が居る。

以前、62人目の獲物として
凶悪犯罪者の悪の魂を3つ放り込んだ女子大生。
あまりに凶暴かしたため、ジョーは麻酔で眠らせて
家に閉じ込めておいたのだった。

彼女、荒巻 すみれ(あらまきすみれ)は、
3つの悪の魂に完全に浸食され、
目に入るモノ全てを壊す、殺人鬼になってしまったのだ。


ジョーは、すみれを解放した。
”名倉”という自分の邪魔をするバカを消すために。

「---名倉さんだったか?
 悪いが私は忙しいんでね。」

ジョーはそういうと、自分の能力で姿を消した。

数か月前まで、レストランでバイトしている
無邪気な女子大生だったすみれは、
手に刃物を大量に持ち、
狂ったように笑っている。

「きひひひひひひひ、きひひひひひひひ」
奇声を上げるすみれ。

そしてーーー
目の前にいる女子児童に襲い掛かり、
刃物で女子児童を切り刻んだ。

悲鳴を上げて倒れる女子児童。


姿を消して、その成り行きを見守るジョーは笑った。

「--名倉俊之、
 私に”興味を持ち過ぎたようだな”
 機会があれば、またあの世で憑依談義でもしようではないか」

ジョーは、
3つの悪の魂に憑依され、狂った女子大生を見つめる。

「--フフ…いざと言うときの為に用意しておいてよかったな」

ジョーが再び姿を現すと、
笑みを浮かべて、女子大生のすみれを再び、
封印しようとした。

ーその時だった。

奇声しかあげないはずのすみれが
突然笑い始めた。

そしてー
ジョーに刃物を突きつけた

「!?」
驚いて体を震わせるジョー。

「ジョーさんだったっけ?」
すみれが、舌でジョーの顔を舐めながら言う。

「憑依能力者をなめちゃいけないなぁ…。
 私は本体が消されない限り、死なない」

すみれが笑う

ジョーはもがきながら声を出す

「貴様ーーー、名倉か」

すみれは笑った。
「お前の人生、終了させてあげましょうか?」

今まで、自分の”切り札”だった 女子大生のすみれが
自らに刃物を突き付けている。

ジョーは額から汗をかく。

ジョーには”もう一つ切り札”があった。
だが、できればそれは使いたくない…。


そう考えたその時だった。

すみれが笑みを浮かべてジョーを解放した。

「……あなた、独身?」
すみれが静かに尋ねる。

ジョーは意図が分からないまま、頷いた。

「…彼女は?」
すみれ(名倉)が訪ねる。

ジョーは、疑問を顔に浮かべたまま

「…いや」と答える。

するとすみれは笑った。

「じゃ、あなたの”幸福度”はまだ上限に
 達してない…。
 命拾いしましたね」

すみれはそれだけ言うと、
ジョーの部屋の出口に向かって歩き出した。


「---待て!どういうことだ?」
ジョーは尋ねた。
しかし、すみれ(名倉)は答えなかった。

そのまま笑い声をあげて部屋の外に出て行った。


一人残されたジョーは
背筋が凍る思いをした

「名倉、俊之…なんだアイツは…」

屍になった女子児童の輪花を見つめる。


「恐ろしい男だーーー」
憑依能力ー。

確かに自分は悪の魂を人に憑依させることはできる。
だがー、
ジョー自身が誰かに憑依することはできない。


しかし、ジョーは笑みを浮かべた。
そして、ピアノで”魔王”を演奏し始めた。


名倉の言葉を思い出す。


「憑依能力者をなめちゃいけないなぁ…。
 私は本体が消されない限り、死なない」



「お前の本体を見つけ出して
 とっておきの悪の魂を憑依させてやるのも
 面白いな…

 なぁ、名倉俊之よ…」

ジョーはピアノを弾きながら邪悪にほほ笑んだ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「すみれの人生、終了でございま~~~す!」

名倉は荒巻すみれの体を処分したあとに、
霊体となり、
今の自分の体、亜衣の元へと戻るため、
光速でホテルへと向かっていた。


名倉は笑う

「あの男ー
 私の本体を狙うかもしれないな…
 だが、無駄だ…
 何故なら私はーーーーーーーーーーー」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

とある薄暗い場所に、
一人の女子高生が足を踏み入れた。

女子高生の名は城嶋 芹菜(じょうしま せりな)

さっきまで彼氏と肝試しをして、
可愛らしく怖がっていた彼女。

しかし、今は無表情で、
”それ”を見つめていた。

「----まさか」

数か月前”名倉俊之”を暗殺した
憑依暗殺部隊のアルファは、とあることを確認するため、
近くの女子高生に憑依していた。

別にアルファに好みは無い。
たまたま近くにこの子が居ただけだ。

芹菜は、一つの墓を見つめて、
顔をしかめた…

その墓にはーーー

”名倉俊之 没年2007” と刻まれていた…


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

とある警察署。

あわただしく若い男が走っている。

「先輩!先輩!」
若い男が年配の男を呼ぶ。

「なんだ?」
先輩刑事が振り向く。

彼らは、憑依暗殺部隊と名倉の対決で起きた
殺人事件の調査をしていた警察官。

死亡した名倉だと思われていた男は、
全くの別人だったことを突き止めた警察官たちだ。


「--”名倉 俊之”という男ですが…」

若い警官が言う。

何故、あのホテルノシハイニンは
”名倉 俊之”を名乗っていたのか。

気になった先輩刑事が名倉について調べるように指示をしたのだ。


「---名倉 俊之は10年前まで、
 近畿地方でとあるホテルを経営してました」

若い警官が言う

「10年前?今はどこにいるーー?」
年配の警官が訪ねると若い警官は答えた。


「それがーー、
 10年前、名倉が周囲に”初恋の相手”と公言していた
 女性に浮気されて裏切られたあげく、
 相手の男と初恋の相手、二人によって、絞殺されて
 死んでいるんですーー」


「--死んでいるーー?」
年配の警官は耳を疑った。

なら何故、あのホテルの支配人は
”名倉 俊之”を名乗っていたのかーーーー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

亜衣の体に戻った名倉は微笑んだ。

「私の本体はーー
 ”この世界には存在しない”

 何故なら、既に私は死んでいるのだからー」

名倉はあの日のことを思い出す。


人生で初めての彼女。
愛していた彼女。

信じていたのに、他の男と浮気をし、
私を邪魔者扱いして、私の命まで奪った。


「私は許さないー」
名倉は呟く。

”この世の幸せそうなカップルを
 私は許さないー。

 私が幸せの絶頂で裏切られ、殺されたようにー。
 幸せの絶頂を味わった人間は、死ぬべきだー。
 人生を終了させるべきだーー ”


名倉は一人微笑むと、
今日もホテルノシハイニンとしての仕事を果たすべく、
フロントへと向かった…。


おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

続きは…無理かも(笑)

コメント

No title

>”ヤバイやつに関わってしまった”
ここで思わず笑ったw

Re: No title

> >”ヤバイやつに関わってしまった”
> ここで思わず笑ったw

ジョーさんが言っても説得力ナシ(笑)
彼も十分ヤバイ人!

No title

たびたびコメしてすいませんが、一つ思ったことがあるので。
名倉が無敵なように思えるが、自分はそうは思いません。
こう宣言するのもなんですが・・・ジョーもそうだが、他にも暴走男など色々いるし、もしかしたらさらに凄い奴が出てきそうな予感。案外、あっさり名倉はまさかの最後を迎えたりも。ちなみに引導を渡すのが・堀内・原田みたいな感じ(失礼調子乗り過ぎました
後、自分の中では最強の憑依者だと思ってるアニメキャラが3人いるんですが名倉はまだ、そこまでは言ってない感じがします。
もしかしたら…その3人もいつかコメするかもしれません、その時こそわかりやすいペン名で長々とコメ失礼しました

Re: No title

> たびたびコメしてすいませんが、一つ思ったことがあるので。
> 名倉が無敵なように思えるが、自分はそうは思いません。
> こう宣言するのもなんですが・・・ジョーもそうだが、他にも暴走男など色々いるし、もしかしたらさらに凄い奴が出てきそうな予感。案外、あっさり名倉はまさかの最後を迎えたりも。ちなみに引導を渡すのが・堀内・原田みたいな感じ(失礼調子乗り過ぎました
> 後、自分の中では最強の憑依者だと思ってるアニメキャラが3人いるんですが名倉はまだ、そこまでは言ってない感じがします。
> もしかしたら…その3人もいつかコメするかもしれません、その時こそわかりやすいペン名で長々とコメ失礼しました

名倉さんは、不完全な部分もありますからね^^
本当に無差別に憑依するような人の方が恐ろしい存在ですよね!
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プロフィール

無名

Author:無名
憑依小説好きです!
TSF/憑依系メイン
の小説を公開していきます!

基本的に毎日更新しています!

無断転載はご遠慮下さい。。

ツイッターやってます!

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